エンレスト錠の副作用で薬剤師が注意すべきこと
新薬のエンレスト錠が採用になったけど、患者さんに副作用の説明をするときに何の副作用に気をつけるように服薬指導したほうがいいのかな?
こんな疑問に答えます。
エンレスト錠の勉強会に参加してきました。薬剤師が服薬指導で注意してほしい副作用について学びましたのでシェアします。
講義は香川大学の西山 成 教授によるものです。
エンレスト錠で気をつける副作用は血圧低下
特に投与開始時と増量時は要注意
この記事でわかること
✅エンレスト錠の概要
✅エンレスト錠の薬効薬理
✅エンレスト錠の服薬指導
エンレスト錠の概要
新しい薬効のカテゴリー【ARNI(アーニー)】
エンレスト(一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)は、1剤でネプリライシン(NEP)阻害作用とアンジオテンシンⅡタイプ 1(AT1)受容体拮抗作用の 2 つの薬理作用を発揮する、新たな心不全治療薬である。
エンレスト錠の効能・効果
慢性心不全・高血圧
ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
エンレスト錠の注意事項
本罪はアンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。
- 解説
- 本剤は、ACE 阻害薬又は ARB の前治療により忍容性が確認された患者に、ACE 阻害薬又は ARB から切り替えて投与する薬剤であること、適応患者を適切に選択する必要があることから、設定した。
エンレスト錠の用法・用量
慢性心不全
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与する。忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量する。1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与する。なお、忍容性に応じて適宜減量する。
エンレスト錠添付文書より
高血圧
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回200mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、最大投与量は1回400mgを1日1回とする。
エンレスト城添付文書より
慢性心不全と高血圧症で初回の量と飲み方が違うので、病名を判断することができます。
初回量 | 用法 | |
慢性心不全 | 1回50mg | 1日2回 |
高血圧 | 1回200mg | 1日1回 |
エンレスト錠の併用禁忌薬
- ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
- 切り替える場合は36時間以上の間隔をあける。
併用により相加的にブラジキニンの分解を抑制し、血管浮腫のリスクを増加させる。
- ラジレス錠(アリスキレンフマル酸塩)
- ただし、糖尿病患者のみ。
非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加がバルサルタンで報告されています。
併用によりレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系阻害作用が増強
エンレスト錠の薬効薬理
新しいカテゴリーARNI(アーニー)
- ARNI(アーニー)
- Angiotensin Receptor Neprilysin Inhibitor
アンジオテンシン受容体ーネプリライシン阻害薬
合剤ではなく複合体
アンジオテンシンの薬効薬りはご存じかと思いますので、ここではネプリライシンについて解説します。
ネプライシン(以下NEP)は利尿ペプチド(ANP・BNP)を切断する(壊す)
エンレスト錠はネプリライシン阻害剤⇨利尿ペプチド(ANP・BNP)を増加させる
利尿ペプチド(ANP・BNP)の主な作用
- ナトリウム利尿作用(血圧低下)
- 血管拡張(血圧低下)
- カテコラミン分泌低下(交感神経抑制)
- 組織の理モデリングや組織傷害抑制
- レニン分泌、アルドステロン産生低下
- アンジオテンシンⅡ作用低下(RAAS抑制)
ANPは心房、BNPは心室で作られる。
心不全の時にたくさん作られるのがANP、BNP⇨心不全の指標。
ANP、BNPが増えるとcGNPが増える⇨血管拡張、利尿作用が起こる
エンレスト錠の服薬指導
服薬指導の例
慢性心不全
このお薬は心不全のあとの心臓を保護するお薬です。お薬を飲んでいて、めまいやふらつき、立ちくらみなどの症状があったら病院か薬局に相談して下さいにゃ。
低血圧に注意するよう服薬指導で説明
- 低血圧時の症状
- めまい、ふらつき、立ちくらみ、体がだるい、疲れやすい
冷や汗、動悸、手足の冷え、顔面蒼白
高血圧の患者さんにはいつも通りの説明をして、低血圧に気をつけるよう話しましょう。
注意すべき患者さんへの服薬指導例
先生から何か注意することは聞いてますか?
血圧を毎日はかって下がり過ぎるようなら受診するように言われています。
そうですか、めまい・ふらつき・立ちくらみなどの症状も血圧が下がっている時におこる症状です。症状が出た時も血圧をはかってくださいね。
注意すべき患者さん
✅腎機能障害(eGFR90ml/min/1.73m2未満)のある患者さん
✅中程度の肝機能障害のある患者さん
✅血圧が低い患者さん
※腎機能、肝機能が悪いと薬が効きすぎてしまう。血圧がもともと低いと低血圧の副作用が出やすい。
特に注意すべき患者さんには服薬後フォローなどで対応してください
薬剤師が服薬指導で薬が効いているかどうかを確認することは難しい
薬が効いているかどうかを判断するのは医師の仕事
「薬が効いているかを正確に判断するには尿中のcGMPの量を測定しなければいけないから」と西山先生は話していました。
「薬剤師は安全性の確認に徹してほしい」つまり低血圧(ふらつき)の副作用が起きていないかを確認すること。
服薬指導では必ず副作用の説明と副作用が起きていないかのチェックをすることが重要です。
まとめ|エンレスト錠の服薬指導
薬剤師がエンレスト錠の服薬指導で気をつけること
エンレスト錠の服薬指導で注意すること
✅低血圧の副作用が出ていないかどうか
✅ふらつきが出ていないか
その他の注意すべきこと
- 50mg錠と100mg錠または200mg錠の生物学的同等性は示されていないため、100mg以上の容量を投与する際は50mg錠を使用しないこと。
- 合剤ではなく複合体であること。
- 複合体にしたメリットはあるのか?⇨比較検討をしていないからわからない。
- 服用中BNPが上昇することがあるが心不全ではない(もともとの薬効でBNPが上がるため)
これらの点を十分に注意して服薬指導をしていきましょう!